脳リンパ腫とは

脳リンパ腫は非常に珍しいがんで、日本では10万人に1人ともいわれるほどです。

脳リンパ腫とは一体どのような病気なのか、どんな症状や検査方法、治療法があるのか、また生存率や完治の可能性などについてもまとめています。

脳リンパ腫とは

脳リンパ腫は、正確には中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)といいます。全身のリンパ系組織に発生する悪性リンパ腫なかでも、脳や脊髄眼球などの中枢神経系にできるものです。

通常、悪性リンパ腫といえば首や鼠径部(そけいぶ:脚の付け根)脇などのリンパ節が腫れる場合が多いのですが、もともとリンパ系組織のない脳にもリンパ腫ができることが、まれにあります。頻度としては非常に低く、脳腫瘍全体のおよそ3程度に過ぎません。また年齢としては中高年層に多く、8割以上の患者さんが50歳以上です。

リンパ系組織のない脳に、なぜ悪性リンパ腫が発生するのかについては、まだわかっていない点も多いのですが、他の部位の炎症で広がってきたリンパ球が脳で腫瘍を形成するのではないか、とする説があります。またHIVに感染しているや、臓器移植を受けた、何らかの病気で免疫抑制剤を使っているの罹患率が高いという報告もあるため、免疫力の低下も関わっていると考えられています。

脳リンパ腫は、脳の深いところに発生しやすい点も特徴です。また、脳の中に複数のリンパ腫が同時に発生することもあります。一般的に脳リンパ腫は進行が早いため、早期発見と早期治療が非常に重要です。

脳リンパ腫の症状

通常の脳腫瘍と同じく、脳リンパ腫の症状も、脳のどの部位に腫瘍ができたかによって異なります。代表的な症状は以下のようなものです。

麻痺(まひ)

脳リンパ腫の神経症状として、麻痺が多くみられます。腫瘍ができた位置によって、左右どちらかの手足が麻痺し、人によっては歩行困難になることもあります。

言語障害(失語など)

おもに左脳の、言語を司る部分に腫瘍ができると、失語などの言語障害が出てきます。

精神症状

前頭葉(額)の部分に腫瘍ができると、人格の変化をはじめとする精神症状がよく起こります。

物覚えが悪くなるぼーっとすることが増える、などの症状もよく出るため、高齢者の場合は認知症などの精神疾患と間違えられることもあります。

けいれん

側頭葉(耳の上)に腫瘍ができると、けいれん発作が起こりやすくなります。

頭痛吐き気嘔吐など

脳に大きな腫瘍ができると、頭がい骨の中の空間が足りなくなって圧力が高まることで、頭痛や吐き気嘔吐などの症状が出るようになります。

こういった症状をまとめて頭蓋内圧亢進症状といいます。脳リンパ腫の症状のなかでも、出ることの多い症状です。

視覚障害

後頭葉(頭の後ろ)に腫瘍ができると、両目の視力が大きく低下することがあります。

また、脳リンパ腫の患者さんの15~20%に、合併症として、眼球の中にリンパ腫が生じる眼球内リンパ腫が起こります。

上記のにも感覚障害や運動障害めまい聴覚障害など、脳の腫瘍では実にさまざまな症状が現れる可能性があります。なかでも特に多いのは麻痺や言語障害などの脳巣症状と呼ばれるもので、全体の50の患者さんにみられるといわれています。次いで、頭痛や吐き気などの頭蓋内圧亢進症状、そして精神症状という順番です。

脳リンパ腫は進行が速く、発見が遅れるとあっというまに命を脅かしてしまうため、上記のような症状が現れた場合はすみやかに受診することが大切です。

脳リンパ腫の検査法

脳リンパ腫が疑われる場合、以下のような検査が行われます。

脳MRI検査

片側の手足の麻痺などがみられる場合は、脳梗塞を含めた脳の病気を疑うため、まず脳MRIという画像検査を行うことが一般的です。放射線ではなく、強い磁気を利用して脳の血管を観察します。

MRI検査では、脳リンパ腫の疑いをつけることは可能ですが、他の腫瘍と見分けがつかないこともあるため、さらなる精密検査が必要です。

脳CT検査

MRIと同じく、脳の血管を映し出す検査で、おもにクモ膜下出血などの脳出血の診断能力に優れています。

MRIと違って放射線を使用するため被ばくのリスクはありますが、MRIよりも検査にかかる時間が短く5分程度で撮影できる点がメリットです。より腫瘍をはっきりと描き出すために、造影剤を用いることもあります。

ガリウムシンチグラフィ

脳リンパ腫が疑われる場合は、あわせて全身の検査も行います。他の部分にできたリンパ腫が脳に転移してきた可能性もあるからです。

そこで、全身を一度にチェックできる便利な検査にガリウムシンチグラフィがあります。

これは、腫瘍や炎症のある部位に集まる性質のある放射性薬剤を点滴した後、ガンマカメラという特殊なカメラで全身を撮影することにより、悪性腫瘍を見つける検査です。

まずガリウムという放射性薬剤を静脈投与し、2日もしくは3日後に再び来院して、ガンマカメラで撮影します。

全身に薬が行きわたるまでに日数がかかってしまう点が難点ですが、一度に全身のがんをチェックできる点がメリットです。

PET検査(FDG-PET検査)

PET検査も、ガリウムシンチグラフィと同様、一度に全身の悪性腫瘍をチェックできる画期的な検査です。

手順はガリウムシンチグラフィと同じで、がん細胞集まる性質のある放射性薬剤を静脈点滴した後、PETカメラという特殊なカメラで全身を撮影します。

PETの場合、薬が全身に行きわたるのが早く、約1時間安静にするだけで撮影が可能です。

細胞診

上記のような画像検査で脳リンパ腫の目安をつけることができますが、より確実に診断するために、脳脊髄液を直接採取して、その中にがん細胞があるかどうかを調べる場合があります。

腰椎の中に針を入れ、そこから脳脊髄液を取り出す脊椎穿刺(せんし)という方法です。

ただし腫瘍が大きすぎて頭がい骨内の圧が高くなっている場合は、脊椎穿刺が原因で腫瘍が移動して脳ヘルニアを起こすことがあるため行われません。

血液検査

脳リンパ腫になると、血液中にも特異な物質が増える場合があるため、血液検査が行われます。

生検(定位的脳腫瘍生検)

脳リンパ腫の確定のためには、最終的には手術をして組織の一部を取り出し、病理検査をする必要があります。これを生検といいます。

生検目的の手術の場合、開頭せず、頭がい骨に小さな穴を開けて、そこから針を刺して組織の一部を採取する定位的脳腫瘍生検を行うことが一般的です。この方式では、頭皮の傷も小さく済みます。

上記の、必要に応じて胸部や腹部の造影CT検査や、男性の場合は精巣の超音波検査なども行い、他の臓器に異常がないかどうかを確認します。

脳リンパ腫の治療

がんの治療というと、もっとも完治が期待できるのは外科手術ですが、悪性リンパ腫の場合は生検以外の目的では手術を実施しません。

リンパは全身をめぐる組織であるため、目に見える腫瘍だけを摘出しても、根本的な治療にならないからです。

脳リンパ腫の治療法は、放射線療法と化学療法が中心となります。

放射線療法

脳の腫瘍には放射線療法がよく効きます。特に、脳全体に行なう全脳照射がもっとも有効で、70~80の患者さんで腫瘍が縮小することがわかっています。

人によっては腫瘍が消えてなくなることもあるのですが、高齢者の場合、全脳照射で大量の放射線を浴びると脳が萎縮し、認知症の後遺症が残ることがあります。

また、放射線療法単独では、生存期間中央値(約半数の患者さんが生存している期間)が約15月と短いため、最近では化学療法との併用がスタンダードとなっています。

化学療法

もともと放射線療法が治療の中心だった脳リンパ腫ですが、近年は化学療法が主体となりつつあります。

ちなみに放射線療法を追加するかどうかは、専門家の間でも意見が分かれており、化学療法を単独で行う場合と、全脳照射を併用する場合とがあります。

特に高齢の患者さんの場合、全脳照射による認知症の後遺症リスクがあるため、化学療法を中心にするケースが多くみられます。

脳リンパ腫の化学療法に使われる抗がん剤としては、メトトレキサートが代表的です。

放射線療法単独の生存期間中央値は約15月ですが、メトトレキサートを投与した後に放射線療法を実施した場合は、40月前後にまで延びることがわかっています。

メトトレキサートは、葉酸代謝拮抗薬というタイプの抗がん剤で、免疫抑制剤やリウマチ薬としても使用されています。

通常、悪性リンパ腫では抗がん剤を組み合わせたR-CHOP療法という化学療法が標準治療となっているのですが、脳腫瘍の場合、脳に薬が入っていかないようにする血液脳関門というバリアがあるために、多くの抗がん剤がこの関門を通過できず、治療効果を発揮できません。

しかしメトトレキサートは、大量に投与することで血液脳関門を突破することが可能です。そのため脳リンパ腫の化学療法では、メトトレキサートの大量投与がよく行われています。

患者さんによっても治療スケジュールは異なりますが、最初にメトトレキサートの大量投与を何度か行い、その後で2~3週間のインターバルを置いてから放射線療法(全脳照射)を行うことが一般的です。

また最近では、副作用の軽減や、放射線の照射量の軽減を目的として、メトトレキサートにさらに他の種類の抗がん剤を加えたR-MPV療法を行うことも増えています。R-MPV療法の生存期間中央値は、およそ6.6年です。

このように化学療法を組み合わせるようになったことで、現在では、放射線療法が単独で行われていたひと昔前に比べると、脳リンパ腫の生存期間中央値は大きく延びています。

特に60歳未満の比較的若い患者さんの場合は、安全に治療ができ、効果も高いことがわかっています。

脳リンパ腫の生存率

多くのがんで5年生存率などのデータが発表されていますが、脳リンパ腫は非常に珍しいがんであるため、正確な数値は公表されていません。ただし上記のように、治療別の生存期間中央値は発表されています。

たとえば放射線療法単独だと15月、メトトレキサートの大量投与と放射線療法の併用では約40月(3年~4年)、そしてR-MPV療法だと6.6年という数値です。

生存期間中央値とは、50の患者さんの生存期間を示したもの、平均余命とえることもできます。つまり、ひと昔前まで1年ちょっとしか生きられなかったことを考えると、脳リンパ腫の治療成績は大きく向上したといえるでしょう。

脳リンパ腫の完治の可能性

上記のように、脳リンパ腫は化学療法と放射線療法を併用した場合、生存期間中央値は6年半程度と報告されています。この数値だけを見ると、結局それほど長くは生きられない、完治の難しい病気であると思われます。

ただし、実際には患者さんによって生存期間はまちまちです。たとえば抗がん剤や放射線の治療効果が非常に高い患者さんの場合は、腫瘍が大幅に縮小し、なかにはそのまま消失してしまうケースもあります。

つまり完治できる可能性もゼロではないということです。また高齢の患者さんの場合は、そもそもの寿命の問題もあるため、何をもって完治とするかは難しいところです。なかにはがんとうまく付き合ながら、天寿を全うできるケースもあります。

つまりがんをうまくコントロールしながら、共存していくこともできるわけです。

もちろん、手術して切除すればそれで完治できるタイプのがんに比べると、脳リンパ腫は治療が難しいといえます。

そもそも悪性リンパ腫は、臓器にできる腫瘍とは異なり、全身にめぐらされたリンパ系組織の病気であるため白血病と同様完治ではなく寛解という言葉が使われています。

つまり、がん細胞をすべて体から消すことはなかなか難しい病気です。

それでもうまく治療ができれば、症状も抑えられますし、見かけ上はがん細胞を消滅させられる可能性もあります。

今後もさらなる効果的な治療法が登場し、多くの患者さんが天寿を全うできるようになることを期待したいところです。

がん保険の資料請求ランキング
(7月集計)をご紹介

  • メットライフ生命
  • FWD富士生命
  • メディカルノート
  • メディカルノート 医療相談
本サービスにおける情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、必ず適切な医療機関を受診して下さい。
本サービス上の情報や利用に関して発生した損害等に関して、弊社は一切の責任を負いかねます。